渋谷、20歳、モデル、8。

樹木にとって最も大切なものは何かと問うたら、

それは果実だと誰もが答えるだろう。

しかし実際には種なのだ。

—ニーチェ(ドイツの哲学者 / 1844ー1900)

6月某日、渋谷。

連休を前に渋谷は益々華やいでいた。街全体がこれから始まる素敵な夜を予見するかのように浮き足立っていた。忠犬も今にも動き出しそうなハチ公前広場に、まるで対極をなすかの如く冷静なKITAGAWAは居た。はやる気持ちと呼吸をゆっくりと整え、さらにゆっくりと、周りを観察した。いつもと変わらない、今日の戦場だ。

さあ、ゲームのはじまりだ。

スクランブルをサーチング開始。信号が変わるたびに押し寄せる人並みを、ぼーっと眺めていた。目があった。ロングのタイトなワンピース、長い髪、アイボリーのハイヒール。スト値8。

「すみません!」

迷わず声を掛けた。考え始めたら負けだ。KITAGAWAは、オープンに最適解などないのを、経験から知っていた。時間をかけてベストを模索するのではなく、最速でベターを探すのだ。そのためには観察することが何よりも大事だ。持ち物、服装、話し方や歩き方、声色、眼球の動き、態度などから、彼女の歩いてきた人生や、価値観を読み取るのだ。KITAGAWAは、間接法の中でもコールドリーディング色の強い、待ち合わせルーティーンを選択した。

「私なら30分くらいかな?」

オープン。

ならんでしばらくドンキ方面まで歩いた。

彼女は20歳。石川出身。モデル。世田谷区在住。時折、ワンピースに入ったスリットから見える足が、たまらなくセクシーだ。飲みを打診。時間制限の理論。友人と待ち合わせがあるから、それまでならOKとの返答が返ってきた。思いも寄らぬノーグダにちょっとKITAGAWA自身が戸惑うも、すぐさま冷静さを取り戻し、円山町のBARへ会話を途切れさせないように気を遣いつつ、誘導した。彼女が店員に注文をする。

「ジンジャーハイボール一つください。」

「じゃあ、俺も同じものを」

ミラーリング。

「ハイボールとか吉高由里子みたいだね?」

そう語りかけながら、注文を待つ彼女の表情を見つめた。軽く微笑んでいる表情がとても素敵で、すでに魅了されかけているKITAGAWAが、そこにはたしかに居た。しかし、これは悟られてはいけない。彼女に敬意を払いつつ、細かいネグを織り交ぜていく。

「つーか、声、酒焼けし過ぎじゃない?」

「酒 焼け子さん、こんにちは。」

時間はあっという間に過ぎて行った。携帯を気にし出す彼女。待ち合わせの友人から連絡が来てしまったのかの?これでもうゲームオーバーか?

「行こう!」

そういって先に席を立ち、KITAGAWAは店を出ようとした。

「待って、会計は?」

彼女が言った。

「さっき俺がトイレにたったとき、ただトイレだけだと思った?」

KIATAGAWAは答えた。

笑顔になる彼女。

「ありがと。ごちそうさま。」

そっと手をさし出す。握ってくる感触を確かめながら、家へ向かって歩き出す。待ち合わせについては、あえて触れない。

「この前後輩と宅飲みしたときのシャンパンが余ってるんだよね。一緒に軽く飲まない?」

グダ。形式グダだと踏んで、一気に押し切る。インマイハウス。乾杯からの、北風と太陽理論。程よく酒が入った二人。シャンプールーティーン。ギラ。ノーグダ。


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