六本木、ナース、6

人生とは自転車のようなものだ。

倒れないようにするには

走らなければならない。

—— アインシュタイン(理論物理学者 / 1879~1955)

7月某日、渋谷。

急な土砂降りに見舞われ、横殴りの雨でジーンズの色がさらに濃い青に変わっていた。この日、kitagawaは2件のアポがあった。前のLTR(Long Term Relationship:長期的な友好関係のこと。この場合、日本文化圏における”彼女”というニュアンスが一番近いかも知れない。)との予定を早めに済ませ、先日番ゲしたナースとのアポを目前にしての、些細な災難だった。

PM23:45。渋谷ドンキ前。

黒いワンピースをビショビショに濡らした彼女は、kitagawaをそこで待っていた。

「ゴメン、遅れちゃって…。田舎者だからさ、迷っちゃって…」

彼女は言った。

「大丈夫だよ。だってわざとじゃないでしょ?それに、キミが同じ立場だったら俺を怒る?」

kitagawaはそう笑顔で言った。彼女は照れくさそうに首を振った。シャンパン・セレブレーションの為にシャンパンをドンキで買った。フルーツはすでに冷蔵庫で冷やしてあった。会計を済ませ、店を後にした。彼女は、自分の傘に入るようにkitagawaを促したが、どう考えても彼女の折りたたみ傘は小さい—。

「俺がさすよ。ほら、腕につかまって。」

kitagawaはそう言って、大きめの傘を出し右腕に彼女をつかまらせた。ロマンティック・エスカレーション。(言動や行動により、対象を現実から乖離させ、情緒的で甘美な時間・空間を演出する。”ロマンティック・フェスティバル”への導入部分となる)彼女は必要以上に、kitagawaにくっついてきた。しばらく、雨の中を歩きながら会話を深める。

「私、かっこいい人苦手なんだよね(笑)」

彼女は言った。言動と行動が矛盾している。kitagawaは緩やかに流すことにした。かっこいい人=kitagawaの方程式を作りたくはなかった。質問を掘り下げると、彼女の気持ちをより顕在化させることになってしまう。地雷(様々な意味で面倒な女性)の匂いがした。なるべくなら、後腐れないような関係を構築したかった。攻め方が決まった。

彼女の好物は肉。そこにフォーカスして、今日のアポを取り付けていた。しかし、雨が激しいことを理由にパーカー理論も合わせて用い、一旦家で飲むことを打診した。ノーグダで了承を得た。シャンパン・セレブレーションからのフルーツ・パラダイス。彼女のテンションが徐々に上がっていくのを感じた。

彼女とは、先週六本木V2TOKYOで出会った。石川県出身、ナース。身長は高め。グラマーな体型、巨乳。姉がギャルで、今年の6月にクラブに連れて行かれたのをきっかけに、クラブ遊びを覚えたらしい。恋愛経験は3人。元彼はモデル出身のイケメンだったらしいが、遊び半分で捨てられてしまい、心に傷を負ってしまった。経験してきた恋愛のほとんどが、短い付き合いだったらしい。kitagawaのタイプとは正直言えなかった。

「元彼に似てるんだよね…」

彼女は言った。強いIOIを感じた。と同時に、距離を一気に詰めた。キスギラ。ノーグダ。下を触りに行く。グダ。

「申し訳ないけど期待に応えることは出来ない…」

彼女は言った。あるいは形式グダなのか。kitagawaは判断を迷った。ここは長期戦も視野に入れて、じっくりいくべきだ。

「別になんにも期待してない(笑)とりあえず楽しく飲もう。」

kitagawaは、そう言いながら、自分と彼女のグラスにシャンパンを注いだ。一口飲んで、彼女の目を見た。頭をぽんぽんしながら、微笑んだ。ロマンティック・フェスティバル。ゆっくりと、キスをした。一度離れて、またゆっくりとシャンパンを飲む。

「あのとき(クラブの中でも)もしたよね。覚えてる?」

彼女は言った。

「うーん…」

kitagawaはどちらともとれる曖昧な返事をした。

「てか、雨で服濡れちゃったでしょ?ちょっと干そうよ、お互い」

kitagawaはそう言いながら、バス・ローブを差し出した。バスローブ・ルーティーン。ベッドに促しながら腕枕をした。ゆっくりとギラつく。形式グダ

拒否絶賛法。解放。

二人で少しだけ眠りについた。アラームがなった。始発で帰るという彼女を、玄関まで送る。

「じゃあね。」

kitagawaは言った。

「今度、お買い物付き合ってね?」

彼女は言った。kitagawaは静かに、優しく頷いた。今度なんてある訳がなかったのは、彼女も理解しているはずだ——そう思いながら、玄関のドアを閉めた。

今日も明るい夜の幕が、目蓋とともにゆっくりと下りた——。


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