華麗なる即宅

人と出会ったおかげで、自分とも出会えた

- 谷川俊太郎(詩人)


8月某日、渋谷。

この日は横山と夕方から落ち合い、久々にコンビでストでもしようか、という話だった。いつものように忠犬の前で待ち合わせ。

kitagawaは人を待つ時間が好きだ。その日起こることをあれこれ想像しながら、メールボックス内に溜まった未返信のメールをひとつひとつ整理していく。煩雑に衣類が投げ出された部屋に転がっているTシャツを、一枚一枚丁寧に畳んでいくみたいに。

夕暮れ時のヌメっとした風がふいに頬を撫でた。昨今の暑さからか、(—あるいはもっとちがう”精神的な何か”からなのか)道行く人々が、ゆらゆらと佇む陽炎のように見えた。

一呼吸おいてから、ゆっくりと辺りを見渡した。雑踏や駅前のさまざまなノイズに至るまで、いつもと変わらない渋谷がそこにはたしかに存在した。

そんなことを考えながら忠犬前の鉄のサークルに腰をかけていると、爽やかな青年がこちらに向けて軽い会釈をした。kitagawaはその顔に見覚えがあったため、会釈を返した。

「久しぶり。」

今日の待ち合わせの相手、横山だ。互いの近況を報告し合いながら、どこへともなく歩き出す。

ハヤトと海へピックアップしにいったときのこと、LTR化してしまった子をまだ切れずにいること—そんな話をしながら、二人は辺りをゆっくりサージングしはじめた。

ピックアップをし始めると、思うように声がけしたい案件が見つからない。探し物は見つからない法則。(陽水理論)

「ねぇ、あれ。」

横山はそういいながら、視線を9時の方向に投げた。視線の後を追う。スクランブル交差点、喫煙所近辺にいる三人組の中にキラリと光る原石を発見。5、6、8のトリオ。

どう行こうか…kitagawaは考えた。

この場合、この環境下において最善の1対多のオープナーは?そして、和みはどうする?kitagawaが先陣を切ったとして、横山をどう織り交ぜていく?

ピックアップに最適解はない。そのことは充分に理解しているつもりだった。

”横山のためにも成功させなきゃいけない”

その思いばかりが先行していた。完全に声掛けのタイミングを見失っていた。

矢先、居酒屋のキャッチのお兄さんに先を越されてしまった。渋谷ではよくある話だが、コンペティター以外にも、ときにはそこで商売をしているスタッフも障壁になる場合がある。渋谷キャメロットや、六本木V2等のスタッフなんかもその類だ。

そのキャッチについていく3人の後ろ姿を眺めながら、もう一度気持ちを奮い立たせた。ラ◯ザップではないが、kitagawaは結果にコミットする。

声掛けを繰り返すも、中々即案件がオープンせず。ここまでは番ゲ2件にとどまっていた。もう一度ハチ公付近をサージング。

高スト案件を発見した。

鉄板の待ち合わせオープナー。違和感なくオープン。彼女も友人を待っているらしい。福島出身、キャバ。親は転勤族で、幼少期は北は北海道から九州まで転々としていた。そんな生活を送っていたためか、中々友達ができず、いじめに合った過去を持つという。

IMG_2388

彼女は友人を一時間も待っていた。連絡も取れていないらしい。根本的な”お人好し系女子”。kitagawaはそこにフォーカスし、シンクロするだけだった。

「実は俺も友人待ってるんだけど来なくてさ。」「あー、同じですね(笑)」

「そだね(笑)オススメのお店があるんだけど、よかったら軽く気分転換に飲みに行かない?最悪じゃん、こんな暑い中待たされてさ、俺ら。」「本当ですかー?あ、、、じゃあ行きますか?(笑)」

連れ出し。

途中で軽く家打診への布石をうってみるが、レスポンスがまだ微妙。時期尚早と判断し、円山町にあるいつもの店へ。そう、バジルとマスカルポーネのピザが美味しいあの店だ。

シャンパンをボトルで入れる。二人ともお腹が減っていなかったため、お通しのパスタ揚げをつまみながらシャンパンを飲む。恋愛遍歴引き出しルーティーン

付き合った人数は3人。元彼とは3年続いた。遊んでいた時期もあり、経験人数は10人強。堅そうなイメージはなかったが、そこまで貞操観念が低めでもなさそうな雰囲気。さて、どう攻めるか。

恋愛遍歴引き出しルーティーンで引き出していた情報を用い、ルーティーン”アイディール・インサイト”(ideal insight:行動や言動から相手の理想を読み取る手法。この場合は相手の理想に合わせた男性像を演じるテクニック)へシフト。コンセントレーションを高める。

ほどよく和んで、店を出る。時計の針は既に0時30分を指していた。終電は?もうない。店を後にし、路地裏を歩きながら彼女の方に手を差し出す。彼女の顔はあえて見ない。そっと握ってくる感触だけがkitagawaの左手から伝わってくる。一気に畳み掛けた。

「こないださ、昇進祝いに貰ったシャンパンがあるんだけど。よかったら一緒にお祝いしてよ。」

「えー(笑)どうしよ、家でしょ?」

彼女のそれを言い切るか言い切らないかぐらいのとき、ちょうどマンションの前に到着した。ドアを先にあけて、彼女をエスコートしながら当然のように中に促す。エントランスにてオートロックを手早く解除する。

エレベーターに乗り、流れるように部屋へ。なんとなく落ち着かない感じの彼女を尻目にグラスとシャンパンをテーブルの上へ運び、音楽をかける。シャンパン・セレブレーション。グラスを交わす。自然と笑顔になる彼女を見て、kitagawaも笑顔になった。

後ろから優しく抱きしめる。フレグランス・ルーティーン。

「いい匂いがする。香水何使ってるの?」

「エゴイストだよ。kitagawaくんもいい匂いするね。」

見つめる。キス。ノーグダ。そのままベッドに移行。

「待って。」「待たない(笑)」「待って。」「待たない(笑)」「ちょ…あッ。」

「あーあ。もうこんなことしないって決めてたんだけどなあ。」

事後、彼女が唐突に、kitagawaの腕の中で呟いた。

この発言、あるいはそれまでの過程から、彼女はバイヤーズ・リモース(Buyer’s Remorse:購買者の後悔)に陥る懸念があった。しかし、kitagawaは彼女をLTR(Long Term Relationship:長期的な友好関係)化することを視野には入れていなかったため、フォローアップは敢えてしなかった。文字通り、ワンナイトでよかった。

問い掛けなのか、あるいはただの独り言なのか、不意に空中に放り出されたそんな曖昧な彼女のひとことに対し、kitagawaは何の言葉も返さなかった。

kitagawaはただただ、満足感と達成感の中で、静かに白い天井を仰いで居た。


コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です