ストナン・ノック 前編 〜エステと夜カフェとTバック〜

みせかけの快はしばしば真正の悲しみに勝る

– ルネ・デカルト


9月某日、渋谷——。

この日は、束の間の晴れ模様だった。週末の予定を土壇場でキャンセルされ、やりきれない気持ちでいた。とぼとぼと帰路につくと、渋谷の街は美若で溢れていた。

時計の針を見ると、まだ19時。天候は晴れ。すべての条件はそろっていた。言い訳はできない。急いで家へ戻り、出かける支度を済ませる。洗い立ての白いTシャツに袖を通すと、ほんのりと香る柔軟剤がkitagawaを清々しい気持ちにさせた。そして、お気に入りのジーンズに身体をねじ込むと、どこからともなく気合いが漲ってきた。香水を振ると、心はすでにピックアップ・モードのスイッチが入っていた。

玄関のドアを開け、今夜起こることにワクワクと胸を高鳴らせながら足早に家を後にする。

20:15。

kitagawaは一人雑踏の中を歩きながら、機械的に声掛けを始めた。

間接法。道聞きオープナーと待ち合わせオープナーを使い分けつつ攻めていく。

1件目 OL風 大丈夫系女子。(「大丈夫なんで〜」といいつつナンパを回避する女子の総称)

2件目 JK 番ゲせずスルー。早く家帰りなさい。

3件目 一人で買い物に来ているナース。埼玉。スト値7。番ゲしてリリース。

4件目 アパレル風7 ガンシカ

5件目 キャバ風8 ガンシカ

6件目 都内の有名私立女子大生。これから女子会。番ゲしてリリース。

7件目 エステ。スト7。スタイル、肌の感じが秀逸。千葉住み。買い物帰りで、これから帰ろうとしていた。

「ゴハン食べた?」

kitagawaはいっきに畳み掛けようとした。彼女は7月に彼氏と別れたばかりで、とても寂しがり屋の様子だった。音楽は3代目が好き。苦手なジャンルではなかった。

「まだ、食べてない」

彼女はなんとも言えない表情で答えた。感情が読み取れなかった。

「この辺にさ、友達に勧められてるめちゃ美味しいらしいイタリアンがあるんだけど、一緒にいかない?一人じゃ入りづらいし。」

kitagawaは詰めた。女子はキミだけじゃない。あくまでそういったスタンスで。

「えー、どうしよっかな」

形式グダ…なのか?kitagawaはこういうとき、空気を敢えて読まない。俺こそが空気だ。俺が酸素だ。俺がいなきゃ君は生きていけない。

「行こう!」

kitagawaはそう言いながら彼女の手を引いた。

「ちょっと。強引すぎ。(笑)」

彼女は笑いながら言った。向かう先は、センター街にあるイタリアン”ラボエム”。ここは、深夜まで営業しており、程よく活気がある。料理も美味しいし、リーズナブル。楽しく和むにはうってつけの場所だ。ワインとバーニャカウダ、手長エビのパスタを頼むのが、いつものお決まりのパターン。互いに食べさせ合うことで親密度を深め、IOIを確認する。

恋愛遍歴引き出しルーティーン。彼女は付き合った人数は5人。付き合うと1年くらいは最低でも一緒にいるらしい。少しだけ茶色に染まった綺麗なロングヘア、タイトなスカート、紺のカーディガン。彼女は21歳とは思えないくらい、落ち着いていた。そして、スト7だが、まだ未完成で成長段階、といった印象を受けた。

終電の時間が来た。千葉までの終電は0:13。時計の針は既に0:10を指していた。

「そろそろ出ようか?もうちょっと静かなところでシャンパンでも飲もう(笑)」

彼女は自分の終電がもうなくなったのは知っている様子だった。レストランを出ると、彼女の腕がkitagawaの腕に絡みついてきた。kitagawaは強いIOIを感じていた。ドンキでシャンパンと彼女の着替えを購入し、自宅へ向かう。パーカー理論

シャンパン・セレブレーション。シャワーを浴び、ベビードール・ルーティーン。

IMG_2793

髪を乾かす彼女を見ながら、kitagawaは何か漠然とした違和感を感じていた。

続く———。


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