或る雨の日の出来事 ④

本日のエントリーは…

或る雨の日の出来事 ①

或る雨の日の出来事 ②

或る雨の日の出来事 ③

こちらの続編になります。よろしければそちらから先にご覧下さい。


涙を流さずにタマネギを切るコツを知ってる? 涙が出てくる前に素早く切り終えることだよ。

— 村上春樹(小説家)

 


Chapter 5 ロマンティック・フェスティバル

 

「乗り換えで走ったからちょっと汗かいちゃったぢゃん(笑)」

彼女はkitagawaを見つけるとすぐ、そんな事をぶつぶつ言いながら隣に近づいてきた。

「はい、これ。どっちが良い?バナナのとマンゴーの。」

 

渋谷駅の埼京線ホームにはフレッシュジュース売り場がある。電車が来るまでのわずかな時間で、彼女の分も買っていた。彼女が万が一、要らないというなら自分で飲もうと思った。

「ありがと。できる男かよ(笑)」

彼女は左手のバナナを受け取り、ストローを口にくわえてゴクリと飲んだ。kitagawaも残ったものを勢い良く飲み干した。この日はとても晴れていた。「デート日和」というのがあるのだとしたら、まさにこんな日のことを言うのだろう、と思った。

渋谷から鎌倉までは、電車の接続が良ければ湘南新宿ラインという路線でおおよそ50分程度で到着する。都内近郊に住んでいたら、小旅行感を醸し出しつつ気軽に足を運べるスポットだ。

kitagawaは鎌倉が好きだった。寺社からは歴史の重みが感じられ、また海などの自然も豊かで、江ノ電界隈はレトロな情緒を残していた。彼女とグーグルマップを用いてお互いの地元をバーチャルで巡り、昔話を掘り下げた。彼女は見た目は派手だが、素直で純情な部分をたくさん残していた。良い気付きがたくさんあった。そんなことをしていると、すぐに目的地まで到着した。

到着すると、小町通りを2人で歩く。食べ歩きツアーの始まりだ。少し小腹が満たされたところで、人力車に乗り込む。風がとても気持ち良い。程なくして鶴岡八幡宮に到着する。

「ごめん、ちょっと寄り道しても良い?」

kitagawaは笑顔で頷く。彼女はそう言って、kitagawaの一歩先を歩きながら階段下の建物の方へ近づいて行った。

「へへっ。これ、お母さんが集めてるんだよね(笑)」

そう言いながら、「御朱印」なるものを見せてくれた。以前テレビで見たことがある。昨今、まるでスタンプラリーのようにそれを収集するのが流行っているらしい。

「よかったじゃん(笑)優しい!」

満足げな彼女を見ながら、kitagawaも笑顔で言った。石段を登ると、思いの外体力を消耗する。境内に入ると、下から吹き上がってくる風が気持ちよかった。財布からお金を出し、なんとなくお祈りをする。彼女も隣で賽銭を投げ込み、手を合わせていた。

「何お祈りしたの?」

kitagawaは尋ねた。すると彼女は少し考えてから、言った。

「内緒ー(笑)」

彼女と過ごす時間は楽しかった。「どこが?」と聞かれたら、具体的には答えられないのだが。フィーリングという言葉で片付けられるなら、それが一番簡単でしっくりきた。おみくじを引く。

彼女は中吉。

「『待ち人・・・来る』だね。よかったじゃん(笑)」

「何が(笑)」

kitagawaは大吉だった。内容に関して2人でああだこうだと話す。距離が少し近くなった気がした。

そのまま鶴岡八幡宮を後にし、江ノ電に飛び乗った。長谷で大仏を見たり、極楽寺で成就院を見たり、お決まりのコースを楽しむ。kitagawaは何度も来たことがあるのだが、いつ来てもそれなりに楽しい。綺麗なものを綺麗だと思える感性は、いつまでも持っていたいものだ。七里ヶ浜で下車すると、海岸沿いのコンビニでお酒を買い込み、海辺のコンクリートで沈む夕日と寄せては返す波をぼーっと眺めながら、どうでも良いことを語り合った。

「そろそろ行こうか。」

kitagawaはそういうと、彼女の手を取って坂の上へ歩き出した。小高い丘の上に、海を一望できるレストランがある。鎌倉で好きな場所の一つだった。

美味しい料理と夜景。ロマンティック・エスカレーション。

「ちょっとここで写真撮ろうよ。」

 

IMG_9753

「なにこれ(笑)」

彼女は撮った写真を見て笑った。ルーティーン、ロマンティック・フェスティバル。2人の小さな手が、遠くの江ノ島をそっと包み込んだ。 

 —続く—


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