ピックアップ 一覧

渋谷、音大生、7。

チャンスは貯蓄できない。

―—樋口 廣太郎(実業家/1926-2012)

「約束してほしいことがある」

「うん?」

「ちゃんと責任もって朝まで付き合ってくれること。家に帰ったり行ったりしないで外で過ごすこと!」

一週間ほど前、渋谷の某アイスクリーム店前で、音大生の二人組をコンビでピックアップした。KITAGAWAはコンビでのストリートナンパのスキルがソロほど高くはなかった。ストリートでコンビをする場合、クラブと違って相手に酒も入っておらず、冷静に状況を分析しながら、相方のサポートもしつつ戦況を窺わなければいけない。また、オープン(声をかけて立ち止まらせる、会話のレスポンスを得る)させるのもクラブよりは難易度が上がる。これは、女子側からすれば無意識下に「私はナンパについていく軽い女ではない」という友人への体裁と警戒心、防衛本能に、より強くレバレッジがかかるからだ。コンビによる弊害である。しかし、コンビによるメリットも多々ある。それを活かせれば強い。コンビ・ナンパにおいては連携が重要なファクターだ。

「アイス美味しいよね」

相方のTが、アイスを食べている二人組にオープナーをなげた。5と7。ゲーム開始の合図だ。Tの得意技、ミリオンダラー・スマイルが決まる。オープンした。kitagawaも負けじと相手を観察し、声掛けする。外見と挙動から、学生なことは容易に予測できた。大学生?それとも…。kitagawaは18歳未満には絶対に手を出さない。法は犯さない。PUA(pick up artist:英語圏でのナンパ師の意)の中には平気でJKとセクをする輩もいるが。さらに会話を進めていく。警戒心から、自己を開示しない属性の女子だ。もっと観察しろ。持ち物、イントネーション、表情、仕草からでる情報を読み取れ。方言はほとんど感じない。埼玉、神奈川などの首都圏か、あるいは西にいったとしても名古屋くらいまでだ。コールド・リーディングで学校名を引き出し、出身が名古屋であることは確信に変わった。びっくりしていた。すかさず、名古屋トークで盛り上がる。kitagawaは、日本中の地域の情報や、様々なジャンルの音楽、あるいは女性のファッションについて一通りの話を出来るように勉強し続けている。これができるのは、もともとそれらに興味があったからだ。ナンパのためにするのならば、きっと根気がいる作業だろう。連絡先を交換して別れを告げた。ほどなくして、携帯に着信がくる。さっきの子だ。まさか向こうから先にメールがくるとは思わなかった。何日かメールのやり取りをした。本当に素直な子だ。名古屋出身、音大生。パーソナル情報を交換した。ある夜、電話が鳴った。その子からだ。1時間程度の会話を交わし、向こうからの強いIOI(Indicator of Interest:関心の表明)を感じた。メールで会う約束を取り交わした。

「約束してほしいことがある」

「うん?」

「ちゃんと責任もって朝まで付き合ってくれること。家に帰ったり行ったりしないで外で過ごすこと!」

そんなやり取りをした。kitagawaは勝利を確信した。アポの時間は週末の23時、渋谷。負ける要素はなかった。ハチ公まで迎えにいくと、彼女はそこにいた。

「今日はコンタクトの調子が悪くて…。メガネなのゴメンネ(笑)」

ふわっとした白のシフォンスカートにピンクのカーディガン。女子らしい格好の彼女は、メガネでも十分魅力的だった。ホテル街にある、行きつけのイタリアンに向かう。ここはリーズナブルな値段で美味しい牡蠣も提供してくれる、自家製リモンチェッロの美味しい店だ。会話を交わしながら、軽めの食事を済ます。

「それを飲んだら行こう」

会計を済ませ、店をでる。向かう先は、自宅。

「私、ちょっと酔っちゃったかも」

「美味しいフルーツが先日実家から届いたんだよね。一緒に食べよう」

理由なんてなんでも良かった。女の子にていの良い言い訳を作ってあげるだけだ。少し玄関先でグダがあったが、KITAGAWAは自信満々な態度と、揺るぎない姿勢と笑顔を崩さなかった。形式グダだった。家に入り、スパークリングを一本あけると、ほどなく睡魔に襲われた。

「寝よう」

kitagawaは言った。バスローブルーティーン。着替えて二人でベッドに入る。彼女は処女だった。はじめは痛がっていたが、ほどなくして痛みは快楽に変わったようだった。本当に痛がったらやめるつもりだった。セクをするのは楽しいが、それは目的ではない。kitagawaは、セックスの向こう側を見るのが好きだ。セクをして、体も繋がると女性はなんでも話すようになる。もっと仲良くなれる。その世界観が、女子の本音が、kitagawaは好きだった。

 


六本木、高身長の女、9

1つのドアが閉まれば、もう1つのドアが必ず開く。

それはバランスをとるための、自然の法則なのだ。

Bryan Adams(musician/1959.11.5〜)

 

6月某日、渋谷。

この日は暑くもなく、寒くもなく、スト(※ストリートナンパ)に適した日といえた。仲間が横浜の祭りでピックアップをする中、kitagawaはやらなければいけない山ほどの仕事と向き合っていた。横浜にはいきたかったが、サラリーマンの身分。決して本業をないがしろにはしてはいけない。家に帰宅するころには時計の針はすでに22時を指していた。シャワーを浴びて私服に着替え、外出の準備を済ませた。以前ピックアップ(※英語圏でのナンパの意)した美容系専門学生とのアポが23時からあったからだ。彼女からのメールが22:50程に着信し、既に渋谷に到着していることは分かっていた。

何処にいればいい?」

質問に対し、スタバにいることを促した。仮に外で待っていた場合、コンペティターからの奪還のリスクに晒されるためだ。そのリスクを限りなく0にできるほどの彼女との信頼関係はあるはずもなかった。KITAGAWAは彼女と一週間程前に路上で出会い、数通のメールのやり取りを交わしただけだった。待ち合わせ場所に行くと、ちょうど彼女から着信があった。

センター街側の出口」

そう一言告げると、しばらくして目の前に彼女は現れた。高身長とロングヘアーのせいか、ボーダーのワンピースがとても似合っていた。

「いこう!」

そういいながら、彼女の先を歩いた。KITAGAWAはいつも、歩きながら相手との会話のツボを探る。彼女は他愛ない話でもすぐに笑った。さらに、待ち合わせ時間の性質上、イージーゲームは目に見えていた。ドン・キホーテでオレンジジュースとウォッカ、ミックスナッツを買い、KITAGAWAの家へ向かう。彼女の好きなお酒はスクリュードライバー。KITAGAWAはそれを以前の会話のやりとりで引き出し、記憶していた。家へ着くとすぐグラスを2つ用意し、アイスペールとアイストング、マドラーを準備した。冷やしておいたシャンパンでささやかなおもてなしをすると、彼女は想像以上に喜んでいた。テレビをぼんやりと眺めながら、しばらく会話を交わした。

「眠いね」

彼女が急に言った。

「俺も。寝ようか。」

そう告げながら、KITAGAWAはバスローブに着替え、彼女の分のバスローブも差し出した。(バスローブ・ルーティーン)kitagawaがバスローブを準備しているのは、セクの為だ。ズボンやショーパンの場合、すぐ下に触れることができない。さらに、寝るために着替えるという行為によってストッキング等邪魔なものをあらかじめ排除できるからだ。ベッドに入るとすぐ、腕枕からの軽めのギラ。(※セクに向けてアプローチをする行為)多少のグダもあったが、すぐ濡れた彼女に対し

「やめる?」

と問い掛けた。

「やめないで…」

形式的なグダだった。そのままセクをした。ことが終わりシャワーを浴びた。シャワーからあがる頃には、彼女は眠りについていた。

なんともいえない虚無感に襲われながら、kitagawaも眠りについた。そのとき、その虚無感の正体が一体なんなのか知る由もなかったし、知ろうとも思わなかった——。


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